君の名を呼んで

真野社長は私を当然のように、城ノ内副社長のマンションで降ろしてくれる。
さすがに今日はオープンにはしてなかったけれど、外国製の真っ赤なオープンカーに、道行く人がちらちらと視線を送っていた。
普段穏やかな真野社長の趣味らしくないと思ったけれど、乗り込む前に「まだこれ乗ってたのかよ」と苦笑する城ノ内副社長に「案外気に入ってるんだよ」と笑う彼には、何だか妙に似合っていた。

「梶原ちゃん、お大事にね」

わずかに微笑んで言ってくれた社長は、城ノ内副社長を無言で見つめて、その肩を叩いて帰って行った。
彼は私の頭を抱いたまま、部屋へと連れて来てくれて。


「雪姫、来い」


彼の手が私の上着を取り払って、皇はひとつひとつ、私に怪我がないか確かめるように、見つめながら指先で肌をたどる。

「寿命縮んだぞ、俺は。すずの奴、『雪姫ちゃんが死んじゃう~』なんて電話してきやがって」

すず~……。

パニックになっていた彼女を思い出す。

「全く、死にそうなのは俺の方だ」

「ごめんなさい……」

服は全部床へと落とされた。
何も無くなった素肌に、皇の唇が触れる。


「お前が無事ならいい」


双子の兄を、皇紀さんを失った皇。
きっと私が想像するよりも、心配させてしまったに違いないんだ。


「城ノ内副社長、どこにも行かないで下さい」


呼び方を変えて、涙と一緒にこぼれた言葉を、彼はちゃんと吸い取ってくれた。

「馬鹿、行くか。BNPは俺と真野が立ち上げた会社だぞ」

苦笑いで、返されたのは聞きたかった言葉。


「皇、誰のものにもならないで」

「お前のものだ。俺の全部、お前にやる」