チュ、と耳の近くで音がして。
赤くなるよりも先に、

「こら!!」

私は朔に眉を吊り上げてみせた。
今をときめく芸能人のくせに不用心な!
試写室のある建物は広い敷地の一番奥。
幸いにも近くに人は居なかったけど、どこで誰が見てるかわからないのに。

「あれ、意外に動じないんだね」

朔は私がもっと動揺して真っ赤になったりするのを期待してたみたい。

「城ノ内副社長のセクハラ発言に鍛えられますから!あなた達みたいな素敵メンズに、こんなの大した意味はないことくらい心得てます!!」

だからと言って易々と許可するつもりはないけどね!

朔は残念そうに笑う。

「ズルいなあ、城ノ内さんは。そうやって雪姫が、他の男に簡単になびかないように免疫つけてんのか」

は?なにそれ。

「朔の勘違いだよ。副社長にとっては私はタダの平社員だもん」

際どい冗談を言われるくせにつまみ食いすらされない、タダの、オモチャ。
あ、自分で言ってて落ち込んできたわ~。

「わかってないな、雪姫は」

何故か朔が楽しそうに呟いた。


その顔が妙に綺麗で、今更ながらちょっとときめいたのは、気のせいだったと思いたい。