あんな風に逃げて来てしまって、皇は誤解してるかもしれない。
けれど、私には桜里との関係を説明できない理由がある。

「それでダメになるようならそれまでの仲です。雪姫も彼を信じきれてないんじゃないの?」

桜里の言葉が、私の心をえぐった。


芹沢社長と楽しげに話していた城ノ内副社長。

いくら私が初恋の君だって、
いくら私を一番と言ってくれたって、
本当に、皇は私に満足してる?
城ノ内副社長の女遊びが、私を手に入れたくらいで本当に治まるものなの?

私は皇の本当の気持ちなんて何も見えずに、ただ不安になる。


……自分に自信が無いからだ。


桜里の存在も、芹沢社長の存在も関係ない。


ただ、私が皇を信じきれていないだけ。
私自身を信じきれていないだけ。


そう突きつけられて、足下が崩れるような気がした。

私の手を放した皇。
きっと呆れられた。
なんて警戒心が薄くて、隙だらけの馬鹿なんだって。
他の男性に簡単にいいようにされる女なんて、皇には腹立たしいだけだろう。


桜里が来てくれなかったら、私はーー。


また滲んだ涙を、桜里は黙って拭ってくれる。
優しい手は、変わらない。


皇と出会う前の私は、ずっとこれを求めていた。

どんなに泣いてもすがっても、桜里は私を置いて海外に行ってしまったけれど。
そうして自分の足で歩き始めて、皇を好きになったのに。

皇を、信じたいのに。


「本気で、任せておけないな」


桜里の呟きは、私の耳には届かなかった。