君の名を呼んで

「……は?」


聞き返した俺に、男は呑気に呟いた。


「う~ん、こっちでは何て言うんでしょうか。……元カレ?」


告げられた関係は予想外なもので。

「まあもっとも、僕は別れたつもりはないけどね」

なんて続いた言葉に、柄にも無く言葉を失った。


「桜里?何言ってるの……」


雪姫がそいつをすんなりと呼び捨てにしたことも、俺の不快感に火をつけた。


「雪姫、お前は誰のものだ」


独占欲に満ちた言葉で雪姫に問えば、彼女はビクリと身を震わせて俺を見る。
その過剰反応にこっちの方が驚いた。

「雪姫?」

俺のこんなセリフは毎日聞いているはずなのに。

「怖がらせないで。あのくそガキに襲われてたんだから」

やんわりと俺をいさめる白鳥とかいう男。意外に口が悪いなコイツ。


けれど、待て、今なんて言った?

「くそガキって、蓮見か」


雪姫の潤んだ瞳がなによりも肯定している。
そして、その襟から覗いた首筋に、痛々しい跡ーー。


ーーあいつ……!



「まあ、未遂で助けたけどね。

いったい君は何してたの?

雪姫の自称彼氏さん」


ーー!!



怒りと、苛立ちと、不快と。
言葉にならないドス黒い衝動。


白鳥になのか、蓮見になのか、殴り掛かりたい欲求がこみ上げる。
けれど、彼に未だ肩を抱かれたままの雪姫の様子の方が、俺を戸惑わせた。