君の名を呼んで

一瞬でこみ上げた不快感と、焦燥感に足早に彼らに近づく。

「ウチの社員がどうかしましたか」

問いかけながらもそれを返せよ、と要求を込めて相手を見る。

近くで見ると、相当な色男だ。
細いフレームの眼鏡を掛けていて、温度を感じさせない涼しげな容貌をしている。
多分俺と同じくらいの年齢か、もしかしたら年上かもしれない。

それに何よりその姿勢、指先までの立ち居振る舞いが、いちいち優雅で無駄がない。

こういう空気に、ひどく既視感を覚えるーー。


「あなたは雪姫の上司?」


は?


雪姫、と自然に呼んだ相手。

思わず雪姫を見れば、彼女は男を見上げて頷く。


どこ見てるんだよ、お前は。
こっちを見ろ。


「BNPの城ノ内だ。アンタはどこのどなた様?」


つうか、その手を放せ。
もう睨みつけると言っていいくらいに、キツい俺の視線をかわすように、相手はふ、と皮肉げに笑った。

雪姫を抱く手を、今すぐ払い落としたい。

そんな俺の前で、男は爆弾発言をした。



「僕は白鳥桜里(しらとりおうり)。

雪姫の……元婚約者、かな」