君の名を呼んで

俺が何を探しているのか、気づいた芹沢社長が、ニイッと赤い唇をつり上げた。

「城ノ内さん、今後とも仲良くさせて頂きたいわ。私は欲しいものは我慢しない主義なんですのよ」


ーーしまった。


雪姫から目を離し過ぎた自分に舌打ちしたくなる。
もう嫌な予感しかしない。

芹沢社長の目は、手段を選ばない類いの人間のものだ。ーー俺と同じ。
彼女のお許しがあれば、あの箱入りのガキが何かをやらかしてもおかしくはない。


「そうですね、業務提携の件なら社長の真野に話しておきます。有意義な時間をどうも」


できるだけ焦りを気どられないように、けれど素早く席を立った時、慌てた様子の蓮見が戻って来た。
ああ、なんだ、雪姫と一緒では無かったのか、と思いかけたその次の瞬間。

雪姫が戻って来た。


一人じゃない。

真っ青な顔をして、スーツ姿の長身の男に半ば抱きかかえられるように。