君の名を呼んで

side 皇


芹沢社長の絡み付くような視線に、とっくに相手の魂胆なんて見えていた。
俺の見てくれと、新参者のくせに急成長したBNPの副社長という地位。
それを手に入れたがる、いかにもやり手の女社長。
自信を持つだけの実績もある。

こういう女と駆け引きするのは愉しいし、利用されてやるのもイイ。


ーーけれどそれは雪姫の存在がなければ、の話だ。


あのめんどくさい鈍感頑固女は、浮気なんぞ到底許すタイプではないし、そもそも雪姫を手に入れてからは、そんな気も起こらない。

……手に入れるまでは、まあ色々やらかしたが。

それもいつか雪姫が嫉妬して、俺への気持ちを暴露するのを狙って、いわば当てつけに遊んだようなものだった。
実際、さっきから雪姫がこっちをかなり気にしているのを感じて、内心浮かれる自分が居る。
ガキっぽい上にしょうもない性癖なのは自覚しているが、雪姫が俺のことでやきもきするのは存外に愉しくて仕方ない。

いっそすがすがしいほどに、わざとらしくさらされた相手の脚と強調された胸元に目をやれば、芹沢社長は微笑んだ。

落とした、とでも思ったか。

アイツもこれくらい色気のあることしてくれねえかなー、いやでもあいつベッドでは結構素直で可愛いんだけど……。
なんて、俺がずっと雪姫のことを考えていたなんて、相手は思いもしないに違いない。


ふと気づけば、雪姫が居ない。


帰る、わけはないよな。
朔も、すずも居るのに?


咄嗟に会場を見回した。


ーー居ないのは

蓮見も、だ。