個室に二人きり。
しかも国民的アイドルと、他社のマネージャー。

明らかに宜しくない。

ーーそれ以上に。
彼の目が、怖い。


「騒いだら駄目だよ、雪姫さん」


首をブンブン縦に振って頷く。
騒げるはずが無い。誰かに見られたら、良くないことになるのは目に見えてる。
どう解釈されたって、まずいことこの上ない。


「雪姫さんの彼氏って、あの城ノ内副社長なんでしょ?」

ニヤリと笑う彼は、アイドルの爽やかさなんて欠片も感じさせず、

「本当につき合ってるの?うちの社長に簡単に落ちてるじゃん」

私の一番言われたくなかった台詞を吐き出す。

わかってる。私だって。
あんなの、見ていたくない。


「あれなら俺の入る余地なんていくらでもありそうだな」

蓮見君は愉しそうに言って、その顔を近付けて、私の唇を奪おうとする。

「やめてよ……!」

とっさに腕を上げて顔を庇ったなら、それが気に入らなかったよう。舌打ちせんばかりに私を見下ろした。

「ねえ、なんでうちのマネージャーが、俺が雪姫さんに構うのを止めないかわかる?」

彼は楽しい秘密を暴露するかのように、囁く。


「雪姫さんを城ノ内副社長から引き離すためだよ。うちの社長、あの副社長にご執心なの。前に見かけてから、ずっと狙ってたんだって」


社長命令。


そう言って、彼は笑った。

「まあ俺にとっても都合良いけどね。邪魔者は居なくなるし、雪姫さんに手を出しても事務所は擁護してくれる」


……え?


言葉の意味を理解するより先に、本能的に鳥肌が立つ。


「い、今、何て……?」


「雪姫さんに何をしても、事務所が庇ってくれるって意味だよ。何せ俺は、“ジェイズの蓮見貴雅”だから」


彼は、冷たく笑って、そう言った。


「ーーっ」



喉から漏れかけた悲鳴は、蓮見君の手に塞がれた。