私達を放って、城ノ内副社長と芹沢社長は店の奥のソファ席で楽しそうに歓談なんか始めちゃって。
仕事とはわかっているけれど、そんな様子にムカムカする。

しかも副社長ってばさっきはあんなに颯爽と私を助けてくれたくせに、美女と話し始めちゃったら、もう蓮見君が私にまとわりついてもお構い無し。


くそう……。やっぱり城ノ内副社長は鬼畜野郎だ!


およそ彼氏に対する表現では無いかもしれないけれど、酔いもあってついつい悪態が浮かんでしまう。
だんだんと目が据わってきた私に、しばらくは朔がつき合ってくれたけど、「二ノ宮く~ん!」と共演者達に呼ばれたのをきっかけに、解放してあげた。

せっかくの忘年会だもんね。朔だって周りと交流を深めなきゃ。
最初は何人かの仕事相手と当たり障りも無い会話をしていたけれど、結局副社長と芹沢社長が気になって仕方なくて。
もう会話は諦めてワインのグラスをテーブルに置いた。

「雪姫さん、飲み過ぎじゃない?」

まだ隣にいた蓮見君が、心配そうに私を覗き込む。

「そう、かも。ちょっとトイレ……」


軽く目が回るのは、明らかに飲み過ぎだろう。
顔でも洗って来よう。
その場を離れて、廊下を進む。


このレストランは結婚パーティとかイベントに利用できるくらい広い。
廊下にもいくつか個室が並んでいた。

ふらつく足で何とか進もうとした、瞬間。


後ろからグイッと腕を掴まれ、丁度傍にあった個室に引きずり込まれた。
身体を壁に押し付けられる。

「な、何っ……!?」

びっくりして相手を見上げれば。


「はすみ、くん?」


蓮見貴雅が私を見下ろしていた。