撮影に戻る彼女の背中を見送って振り返れば、壁に寄りかかってこちらを見ていた城ノ内副社長と目が合った。

「……もう、大丈夫です」

今度は確信を持って、そう言った。

城ノ内副社長は真顔で口を開く。

「雪姫、今すぐ押し倒していいか」


はぁ!?


「な、何てこと言ってるんですか!駄目に決まってるでしょう!」

だからここは仕事場、撮影所、セット!
それに『いいか?』って疑問形じゃなかった、絶対命令形の『いいか』だった、今!
何でこの人こうなの?


「お前はやっぱり遠慮がなくて、人ん中にズカズカ踏み込む天才」

「あの、それって私をけなしてますか、それとも貶めてますか、責めてますか?」


ううっ、何て言われよう。


「そーいうところが、押し倒したくなるくらい可愛いっつってんだよ」

「は!?え、あの」


不意打ちの、口説き文句に。
私は真っ赤になって、慌てふためく。
そんな私を見た彼が嬉しそうに笑ったその顔に、またドキンと胸が高鳴った。


……本気でセット裏に引きずりこまれそうになったのには、全力で抵抗したけどね。