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私の声にこちらを見て、城ノ内副社長を見た舞華さんは、口元を歪めただけで何も言わなかった。
多分、彼がなぜここに居るかに気づいたんだろう。

彼女のしたことは許せないし、皇を譲ることなんてもちろんできないけれど。

でも皇の大事な幼なじみで、そんな彼女から皇を奪ってしまったのは事実で。
舞華さんが私を憎む気持ちもよくわかるから、私には彼女を嫌うことはできないんだ。

……そう言ったら後からすずには
「雪姫ちゃんてばお人良しすぎだよ!!」と言われたけれど。


「舞華さん」


呼び止めた私を思いっきり嫌そうな顔で見て、けれど彼女は立ち止まってくれた。


「あなたなんて汚れればいい」

舞華さんがそう言って私を睨む。

「思いっきりズタズタに傷ついて、なにもかも失って、そんな能天気な顔できなくなればいい」


「そうなったとしても」

私は彼女をまっすぐに見つめた。

「私は皇から離れません」

心から、そう告げた。


「……勝手にすれば」

舞華さんは冷たい口調で、けれど微笑んで、そう言った。


「それに舞華さんにも救われて欲しい」

私がそう言うと、彼女は大きく目を見開く。


「あなたって、傲慢。余計なお世話よ」


予想通りの言葉。


——けれど、彼女の笑顔はとても柔らかくて、とても綺麗だった。