ああ、そういえば私逃げたんだよね。
しかも敬語もすっ飛ばして、失礼な態度だったかも。
(いつものことだけど)
仕方ない、サラッと謝っておくか。
どう譲歩しても悪いのは向こうだと思うけど、ほら、私、社会人だし!大人だし!

「副社長……」

「あっ、城ノ内君だ!珍しいじゃない!」

言いかけた私を遮った華やかな声。
振り返れば絶世の美女がいた。

「わっ……」

思わず感嘆の声を漏らしそうになって自制した。芸能プロの人間らしからぬ行動だもの。

だ、誰?
仕事がら綺麗な人は良く見るけど、こんなに全身華やかな人は珍しい。
よくよくその美女を観察したなら。

この人、モデル兼女優のレナだ!!
(き、綺麗~!迫力~!)

なんて呑気に考えていた私の前で、レナは城ノ内副社長に腕を絡ませた。

「久しぶりじゃないの~。まったく裏方にまわるなんてらしくないわね」

「えーむしろ俺らしいだろ。レナは大活躍だな」

二人はなんだか凄く親しげだ。
チクリ、と胸が痛む。

「あれっ、新人さん?」

レナが私に気付いてにこやかに微笑んだ。
副社長がクスクス笑い出す。

「コイツは売りモンじゃなくて、マネージャー」

売りモンって。
無視されなかっただけまあいっか、なんて思ってから、私は慌てて頭を下げた。