「ところで、副社長はなんでこんなとこに?」

今頃気づいたかのようにすずが聞いた。
城ノ内副社長は苦笑に近い笑みを浮かべる。

「今日の撮影は舞華も一緒だろ。朔は別の仕事で抜けるって言うし、ちょっと気になってな」

……心配、してくれたのかな。

「大丈夫ですよ」

私は彼に微笑んだ。
その気持ちが、ただ嬉しかったから。
すずは私の顔を見て、「ようし、じゃあ出番行ってきます!」とセットへ向かう。
気を遣ってくれたのかな。


「舞華の気持ちは知ってたし、あいつがやりそうなことも分かってたってのに、ちゃんと止められなかった。お前には迷惑かけたな、悪かった」

機材置き場になっているセットの死角に私を連れてきて、城ノ内副社長はそう言った。

「いえ、そんな。副社長はちゃんと私を助けてくれましたよ」

城ノ内副社長が謝るなんて!
天変地異が起こる前に慌てて否定する。


「でも、お前もお前だぞ」

彼が私を引き寄せ、その長身に隠すように軽く抱き締めた。

「じょ、城ノ内副社長」

「お前はもう少し俺に頼れ。危なっかしくて仕方ない」


彼は甘く耳元に囁いて、指が私の腰骨をなぞる。

ど、どうしよう。な、何なのこの状況。
ていうか、ここ仕事場だし。
誰が来るかも分からないセット裏だし。