「蓮見さんは、どれにしますか?飲み物」

各種取り揃えられた飲み物を指して言えば、彼はにっこりと微笑む。

「うん、雪姫さんと話す口実だから。どれでもいい」


ええと……。なんて返せばいいのかな、この場合。

返事に困って、とりあえずにへら、と愛想笑い。

「蓮見さん、私なんかに構ってると、またマネージャーさんに叱られますよ」





それは記憶に新しい、撮影初日のこと。
彼のマネージャーがゴネた。

「控室が個室じゃないってどういうこと?ジェイズの蓮見貴雅なのよ」

「そう言われましても、ロケ先じゃなかなか人数分の確保は難しいんですよ。結城さんや藤城さんも他の方と相部屋をお願いしてますし」

「他の人は知らないわよ!とにかく貴雅の分を用意して頂戴」

AD対マネージャーの攻防戦に、私と朔は絶句。


……スゴイなあ。アイドル事務所はなんだか大変そうだ。

ジェイズはイケメン4人組のアイドルグループで、歌にドラマにバラエティと、マルチに活躍中。
老若男女、お茶の間の皆さんならほとんど知ってる芸能人。
だからまあ、必ずしもワガママとは言い切れない。
こういうのは商品価値を維持するために仕方ない部分もあるんだろう。

けれどぎゃあぎゃあと騒ぐマネージャーの後ろで、むしろウンザリといった顔をしている蓮見貴雅が見えた。

「俺は別にイイって」

「あなたが良くても事務所が良くないわよ!ジェイズの蓮見が相部屋なんて!」


蓮見君の意見は一蹴され、彼はますます不機嫌そうな顔になった。