撮影も順調に進み、今日の予定を消化できそうな見通しがたってきた。

うん、なんとかなりそう。
私は腕時計と手帳とのにらめっこを終了する。

ふと私の隣に立った長身の影に気付いて、見上げたなら。

「城ノ内副社長!?」

「よぉ、雪姫」

なんでここに?

「ウチのホープ見にきたら悪いかよ。商品管理も俺の仕事だ」

「そ、そーですね?」

……一理ある、けど。
副社長が現場に来ることは珍しい。
こちらに気付いて朔が近寄ってきた。

「どうしたんです、城ノ内さんが来るなんて珍しいですね」

朔も驚いている。
やっぱり稀なんだ、こんなこと。
すると副社長が鼻で笑って言う。

「ああ、未熟で口の悪い平社員がウチのスターの代理マネなんて、ヘマしてないか不安になってな」

「それってもしかしなくても、私のことですか!」

ひどい言いぐさに横目で副社長をじとっと睨めば。
朔が私と城ノ内副社長を見比べて、かすかに笑った。

「ご心配なく。雪姫はよくやってくれてますから。つーか、こんなに気が合うマネージャー初めてかも」

「朔!?」

言われると思っていなかったフォローと言葉に、私は思わず朔を見上げた。
う、けど人気ナンバーワンの所属俳優にそんな気を遣わせてる時点で、かなり情けないよね。


複雑になりながらも喜ぶ私を見て、城ノ内副社長はふうん、と呟く。
低く笑った。


「雪姫と朔ね。
呼び捨てで呼び合う程度に、仲良くなったなら何より」


……ん?
なんだろ、何か引っかかった。

朔は副社長の言葉にふっと笑い、撮影に戻っていく。
後に残された私と副社長は妙な雰囲気。
嫌でもあの会議室を思い出しちゃって、気まずい。