とある夜、自販機の前に立ってみた。
前から気になっていたこの自販機。
パステルカラーに包まれてひっそりと佇むその様は不可思議そのものであった。学生寮と校舎の間に立つその自販機には、何故かミックスジュースしか置いていない。
しかし、押すボタンで違うものがでてくる。

別名、くじ引き自販機。

僕はこの5月の満月の下、自販機の前に立っていた。入学当初から気になっていたこの自販機のボタンを、遂に今日、押すのだ。
部屋着のポケットから小銭入れを取り出した。
十円硬貨を二枚取り出し、一気に入れる。
そして一息ついて月光に煌めく百円硬貨を押し込む。自然と呼吸が止まる。
ピピッと電子音がして、パッとボタンが全て点灯する。
僕は全部で16個あるボタン一つ一つに目を通した。そして最後に、一番目に留まった二段目の右から四つ目のボタンに手を伸ばした。
ピ。ガタンゴロガン。
出てきたのは、自販機にある見本と全く同じミックスジュースだった。
僕は透明のドアを開け、ミックスジュースを取り出した。
ひんやりしたペットボトルの質感が綺麗に肌に伝わってくる。
僕は、寮に戻ろうと足を進めた。
しゃりしゃりしゃり…
何か、小さな音がした。
何かが、モノを食べる音だった。
しゃりしゃりしゃり…
僕は、足を進めても音量が変わらないことを不思議に思った。
しゃりしゃりしゃり…
僕は、ふいに上を見上げた。そこには、なんとも不可思議な光景があった。
大きな黄色い満月に大きな鼠がしがみついて月にかぶりついていた。
その周りには、灰色の雲を纏った女の人が舞っていた。

『十五夜の月ほど
 甘いものはない
 きっと旦那様も
 お喜びになるわ
 人間達にはない
 私達だけの感性
 大事にしなきゃ
 もったいないわ
 でも今日は特別
 十五の夜だもの
 招待しましょう
 麗しき人間の子
 仲間にしましょ
 甘美な人間の子』

気付けば僕は宙に浮かんでいた。

その日の記憶はそこで途絶えていた。目を開けると、右手にはびしょびしょになったミックスジュースのペットボトルが握られていた。左手には、同じく濡れたペットボトルを握りしめた美少女の裸体が静かに乗せられていた。
「すー」
どうやら寝ているらしい。
僕はなぜか彼女を抱き締めなければならない気がして、その柔らかな体を抱き寄せた。
「んん…」
すぐに抱き返される。
額に、唇をあてた。
少女が焦れったい様に唇を重ねる。舌が唇を割り、絡みあう。
今までこんなことしたことないのに、そうしなければならない気がする。
指は驚くほど滑らかに彼女の中に吸い込まれ、静かに降りてくる月光とは対照的に激しく暴れだした。
「んんっ…。」
少女が声をあげる。
舌は滑らかに背中まで線を描いた。
ここがどこなのか、わからない。
彼女が誰なのか、わからない。
ただひたすらに彼女と抱き締めあい、快感に埋もれていく。
快感の頂点に達した時、僕の指は彼女の中を掻き乱し、ありったけの愛を放出した。
彼女は声にならない叫び声をあげ、すぐに僕にその愛を快感に替えて返してきた。
ミックスジュースが背中をひたす。
鼠が食べた月に似た色の液体が、いつの間にか零れ流れていた。

『招待しましょう
 麗しき人間の子
 仲間にしましょ
 甘美な人間の子
 二人は天の玩具
 互いに抱きあい
 天女を産み出す
 多分もう二度と
 天の玩具は地に
 戻ることはない』


「とある満月の夜。」
「二人の少年少女が」
『消えた。』