「なんか、・・・バラしちゃってごめんね?」

放課後、篠宮さんと二人で並んで歩く。雨がやんでいたので、自転車も回収した。昨日は「たまたま電車で帰った」とごまかした。雨に濡れたアスファルトは雲間から差し込んだ太陽に控えめに照らされててらてらとしている。蒸し暑くなりそうだ。

「篠宮さんのせいじゃないよ・・・ぜ・・・全然、ばれても良かったし!」
「本当?ごめんね?」

全然、何も謝ることは無いよ篠宮さん!・・・となんとなく饒舌になれずにしばらく無言が続いた。篠宮さんはずっと下を向いている。言い方が悪かったか?傷つけてしまったのか!?

「た・・・」

なんとか取り繕うと口を開こうとしたら篠宮さんが先に口を開いた。

「た?」
「・・・たかし・・・くん・・・」

消え入りそうな声でそういうとまた黙りこくった。しばらく何が起こったかわからなかったが、思わず自転車を投げ捨てて篠宮さんの顔を下から覗き込んだ。耳まで真っ赤だ。

「な・・・名前・・・名前で呼んでみただけ!」

叫びだしたい気分だった。でも、まだ足りない。呼び捨てにしてほしい!!

「『くん』外してください・・・」
「へ?」

何というかわいい「へ?」だろう。一瞬、気が遠くなったがここは男として踏ん張るところだ。

「た・・・『たかし』・・・でいいよ。」

篠宮さんが顔を上げてこっちを見た。

「そんなの・・・急に無理ぃ・・・恥ずかしいもん!」

恥ずかしがる篠宮さん最高だ!なんてかわいいんだ!そう思っている所へ、一台、車が近づいてきた。

「お、さら、今帰りか?」
「あ、お父さん。」
「お、それが彼氏の『たかし』か?」

篠宮さんのカバンが落ちた。

「・・・え、何でお父さん名前知ってるの!?」
「・・・え?・・・だって携帯ってかスマホ開いたままだったから・・・」
「・・・え、いつ?」

篠宮さんが悩んでいると、篠宮さんがお父さんと呼んだ人物が車から声をかけてきた。正念場だ。こんなに早くこんな日が来てしまうとは!

「あー、たかしくん、娘をよろしくね。じゃあ、またいつか。」
「あ、はい!」

正念場はあっという間だった。そして、車は発進していってしまった。