いつまでも布団を被ったまま出てこない紗良里に、穂月はそっと声を掛ける。

「ね、顔を見せて。話がしたいの」
「なんだか急にものすごく具合が悪くなったわ」
「……ねえったら」

紗良里がこの病院に入院して、そろそろ半年も過ぎようとしていたが彼女は未だに姿を見せようとしない。
その理由について尋ねることはなんとなく出来ずにいたが、穂月は一つそれについて心当たりがあった。
だが、それだけで顔も見れない風になってしまうのはやはり寂しいのだ。
それでも穂月は、自分に原因があるその心当たりについて、自分から触れる勇気もなくしていた。
少しの沈黙のあと、紗良里が相変わらずか細い声で穂月を呼ぶ。

「ね、ね、穂月」
「……紗良里」
「大好きだよ。ほんとうに。ね、ほんとうのほんとうだからね」
「……なに、いきなりどうしたの」
「だからあんな事故なんかで、紗良里のこと嫌いにならないでね」
「……」
「こんなの、大丈夫なんだから。治ったらまた絵を描いて、見せてあげるわ。穂月の似顔絵も仕上げなくちゃね!」
「……やめ、て」
「ああ、あと木登りやりたいな。ねえほっちゃん、学校の体育館の裏の木、登ろうって約束したよね」
「やめてよ!」

穂月の大声に白い塊がびくっとした。

「ねえ!私が悪かったのは、分かってる。でも、やめてよそんなの……!しっかりしてよお願いだから!あれから半年経ったの、もう中学校は卒業したのよ。木登りの約束は中学生の時の話じゃない!私の似顔絵を描いてくれたのは小学生で、完成しないうちに施設のオトナに焼き捨てられたでしょ⁉︎私のことほっちゃんなんて呼んでたのはほんの最初だけじゃない」

穂月はそこまで大声で喚くと、はあ、と息を整えて目元に力を入れた。
そうでもしなければ涙が出てきてしまうのだ。