それから数年が経った。
愛おしい我が子も産まれて、男の世界は薔薇色で満たされていた。

月のついた名前を持った、愛おしい我が子。
あの羽根を持ってしても、青い薔薇は作ることは出来なかったがその代わりにとてもいい匂いの薔薇が出来た。
なによりそれはすごく楽しい気分になる。
あれを焚くと何故だが我が子は一目散に逃げ出すのだが、薔薇の匂いは子どもには不評なのだろうか?
あんなにいい匂いなのに。

それにしても、いつか出会ったあの未知の存在にもう一度会いたい。
あの人のお陰でこんなに良い気分になっているのだから、お礼がしたかった。

男はあの日のことを思い出した。
突然に青い翼を持つ人が目の前に現れたあの日のことを。

青い薔薇は誰かが作ったようだった。
男でない誰かが。

電子顕微鏡は更に進化した。

子どもは大きくなった。

あの日の青い翼の人は綺麗だった。

男の頭の中で色々な情報が行ったり来たりする。
なんだかよく考えられないが、とても幸せな気分だった。

あの日、そういえば死後の世界はどうなるかとかいう話をした気がする。
死後の世界というのは、どんなものなんだろうか。
それが分かれば、今度こそ自分は大発見が出来るのではないか?
誰も知らないことを知れるじゃあないか。
こんな機会はなかなかないじゃないか。
興味のためなら投身自殺だって出来るのが自分じゃないか。
ならば、いいじゃないか。
一回ぐらい死んでみたっていいじゃないか。

そう思った男は、思い立ったように近くのビルの屋上まで登ると、躊躇いもなく身を投げ出した。