あまりに急な言葉に、二人で言葉を失う。
先に声をあげたのは穂月だった。

「……は?」

紗良里の顔が少し青ざめて、掠れた声をあげる。

「やっぱり……事故で私は死んでたってこと?」
「紗良里は物分りがいいね。そういうことです。……これについてはまあ、嘘をついてきたわけなんですけど、少なくとも紗良里にはばれてたみたいだから関係ないですかね。穂月ちゃんが死ぬのならこの話もしなくて良かったんだけどさ。ともあれ、こうすれば穂月のお母さんの『濁花の被害者を助ける』願いは一番効率が良く叶えられる。私は自分の身体に色々な命を溜めておくことができるので、それまでずっと私の身体にあったんですよ。紗良里は濁花から人類を救う存在ですからね」

すらすらと語り出す妖精に、ちょっと待ってと穂月が止める。
悩むような仕草をしながら、言葉を整理しだした。

「つまり……私が紗良里を止め損ねた、あの踏み切りの事故で紗良里は死んでいたのに、私のお母さんの命を妖精サンが入れたから、息を吹き返したってこと?」
「そうですよ。死んでから何時間かで身体の方が使い物にならなくなるので、そうなると命を入れてもダメなんですけど、あの時は私がすぐに駆けつけられましたから」
「……紗良里は生き返ることをこの妖精サンに依頼してたってこと?」
「違いますよ」

話題の中心となっている紗良里は何も言わないが、妖精が視線を向けると首を横に振った。
それを見て、妖精はため息をつきながら穂月に向き直る。

「ここから先は、紗良里の個人情報ですからお話できません。契約内容に関わっちゃうんで。契約完了したら秘密義務は無くなるんですけどね」
「……そう。じゃあ聞かないけど……でも紗良里」
「……なに?」

穂月は席を立ちながら真っ直ぐ紗良里の瞳を見つめた。

「死なないでね」
「……うん」

紗良里はそっと視線を外して返事をする。
少し怪訝そうな顔をする穂月を見ることなく、「ばいばい」とだけ呟いた。
穂月は少し考えるようにしながらドアノブに手をかけた。

「ばいばい。また来るね、紗良里」

穂月が出て、かちゃりとそのドアが閉まった。
それを確認すると、紗良里はふるりと小さな身体を震わせて左肩から涙を流した。

「ごめん……ね……」