「……穂月」

呆然としながら、親友の名前を呼ぶ紗良里の声に穂月はそっと顔をあげる。
半年ぶりに見るその顔に、涙でぐしゃぐしゃにしながら返事を返した。

「紗良里……っ」

そのまま転がるような勢いで白いベッドに近づくと、紗良里の細い身体をきつくきつく抱き締めた。

「……ごめん」
「なんで……謝るの?」

戸惑うばかりの紗良里に対して、穂月はその右肩の上でただ涙を流すばかりで応えようともしない。
ただ時折、ごめんなさい、ごめんなさいとだけ息に混じって聞こえてくるだけで。

「穂月……?」

紗良里は既に顔を隠そうという気も忘れて、泣きじゃくる穂月の背中にそっと腕を回した。
謝り続ける穂月の髪を梳きながら、妖精に目線を移すのだが、その人は安心するように微笑みを返すばかりであった。

十分は経っただろうか、やっと落ち着いた穂月がそっと紗良里を離す。
ベッドの横に置かれた椅子に座って涙をハンカチで拭いた。
その様子を見ていた妖精が、穂月に笑いかける。

「聞いてただろう?」

穂月はこくり、とだけ頷き、紗良里に向き直った。
涙はもう出ていない。
真っ赤な目で、じっと紗良里を見て、一瞬だけ目線を下に俯かせるとまた真剣な目で紗良里を見た。
そんな二人の様子を紗良里は不思議そうに交互に見やって首を傾げた。
ようやく、穂月がその口をゆっくり開く。

「その花……痛くない?」

そこで初めて紗良里は自分が顔を隠し忘れていることに気が付くが、今更遅く、少々気まずそうに返事をした。

「全然、大丈夫なの……見た目は気持ち悪いけれど」
「そうだよね……ごめん」
「ねえ、なんでそんなに謝るの?事故のことなら、私が勝手に発作を起こしたせいだって……」
「そもそもそれも私が手を繋いでいなかったせいだけど……そうじゃないの」

穂月は決心したような表情を紗良里に向けながら、白いシーツを握り締め、はっきりとした発音で言った。

「濁花を作ったのは……私の両親なんだ」

紗良里の息が詰まる音がした。