「でも、『私はあなたの秘密を知っています』

に関しては悠吾は菜都から聞いたんじゃなく、小坂先輩から聞いたんじゃないの?」


「どうして・・それをシンが知ってるの?」


シンは答えた。


「悠吾が小坂先輩の所に行っている時に、菜都が教えてくれたんだ。

小坂先輩が、自分の昔の事を悠吾に話すかもしれない・・・って。

まだ、悠吾に話していない事があったのに・・・って。」


まだ温かい菜都を、僕はグッと強く抱きしめた。


「だから『私はあなたをよく知っているモノです』っていうフレーズは、

悠吾にとって、もし小坂先輩から菜都の事を聞かなければ、

まだまだ菜都の事は、上辺だけしか知らないモノだったって事になる。」


「・・となると、菜都の事を『知っている』って事と『秘密を知っている』って事が同時に存在するって事は・・・菜都が僕を『裏切ってる』っていう裏付けになるって事か・・・」


シンはゆっくり頷いた。


『そこにいる』は・・・裏切りの証(あかし)・・・



次の日、僕らは冷たくなった菜都を親戚に引き渡した。



数日後、僕は学校の屋上に上がった。


そこには、いつものベンチに小坂先輩が座っていた。

相変わらず分厚い本を広げている。


僕は前のように、小坂先輩の隣のベンチに黙って座った。



「うまくいかなかったようだね・・・僕の提案。」



目は本の文字を追いながら、小坂先輩は僕に話しかけた。


「そうですね・・・。人って・・正しい理論だけでは、動けない事が分かりました。」