「要するに、ワニは旅人を通す事なく、本当は旅人を食べてしまうつもりだった。

しかし、食べようとしている事を、旅人に当ててしまわれた為、約束を守ろうとすると、旅人を食べる事が出来ない。

でも、食べたい。でも、食べられない。」



「そう、ワニは頭の中で何度もソレを繰り返すうちにパニックに陥ってしまうのさ

。食べたいけど、食べられないグルグルの思いから抜け出せず、そのジレンマに苦しむうちに、旅人はワニの横をなんなく通っていったのさ。」



「・・という事は、菜都が小坂先輩に言った事って・・・」



「『先輩は、私と付き合わないでおこうと思っていますね』・・だって。

思わず吹き出したよ。」



理論派どうしだと、こういう告白の展開になるのか・・・



「で、結局先輩はなんて答えたんですか?」


「この時僕は、2つの返事を思いついたんだ。

1つは、彼女の言葉にまんまと乗ってあげる方法と。

もう1つは、その論理に対して、似た論理で返す方法。」



頭の中がこんがらがってきた。



「なんか・・ややこしいですね・・」



「別に・・・・!

・・それより、キミ・・僕に急ぎの用事なんじゃないの?」


小坂先輩に指摘されなくとも、そんな事は分かってはいたが、菜都に対する思いが、すこし僕の中で揺れていた。

実際、急ぎの話しとは・・菜都の事だ・・・。

しかし、今は菜都の命が懸かっている緊急事態・・・だよね・・!?

・・それとも、そんな事を考えつく菜都の自作自演?!

正直・・僕は菜都が、段々分からなくなっていた。

さっきの男のテレビも、もしかして菜都が見てない間にビデオを流したとか・・・?!

いや、それならシンも居たからそれは無いか・・・・。

でも・・・

いまや、ジレンマに陥っているのは紛れもない僕だった・・・。



「大丈夫?」


青ざめた顔のまま、口をパクパクさせる僕の顔を、小坂先輩は心配そうに覗き込んだ。


『とにかく、このままモヤモヤここに居るわけにはいかない!』


僕は、意を決して小坂先輩に頼むことにした。