高校の入学式の日、叶衣は清蘭に告白というものをされた。
その頃から黄色頭だったが、それでも彼女は可愛かった。
しかし、そんなことは関係無しに青年は男女交際に興味がまるで無かったので、ごめんなさいを告げた。
だいたい、会って数時間で告白とは何事だろうか。
しかも、一番初めに彼女と交わした会話こそがその告白そのものだったのだ。
彼女の第一声が「なんか、すっごい好きなのですが、どうですかね?へへへ」であったため、それに対する叶衣の返事が「何が?」であったことは責められないだろう。

しかし、話はそれで終わらない。
それからというもの、彼女はことあるごとに叶衣に告白というものをし続けた。

――これ、友達って言えんのかな?

ただ、奇妙な関係であることは間違いなさそうだった。

「ピヨ子」
「それ、なんでピヨ子なんですか?」
「え?頭黄色いし、頭の中もなかなかぴよぴよ飛んでるから。
……正直清蘭は似合わねえし」
「あ、ひどーい!清蘭ちゃんは清く美しい蘭のような女の子なんです。ね、清蘭って呼んで下さいよう!」
「嫌だね。つかいい加減他の奴探せよ、お前もさ」
「やん、心配してくれてるんですか珍しい。悪いものでも食べましたか?
だがしかしBUT、清蘭ちゃんは諦めません。ネバーギバーップ!」

天高く拳を突き上げる姿に至っては、ただの阿呆である。
立ち止まった清蘭を振り返り呆れていると、叶衣の目にその後ろから音もなく一人の少女が近付いてくるのが見えた。
黒髪を長く腰のあたりまで伸ばしている、可愛らしい子だ。
歳は彼らと変わらないくらいだろうか。
綺麗な和装に身を包んで、じっとこちらを見つめて――叶衣にこりと笑いかけた。
かと思うと何やらノートに書き込んでもと来た道を走っていなくなってしまった。
その一部始終を黙って見ていた叶衣の視線に気が付いたようで、清蘭が怪訝そうに後ろを向くが、既にそこに彼女の姿は無い。

「なんですか、めっちゃ変な顔してるからなにか凄いことでも背後で起こってるのかと思ったじゃないですか!」
「いや、だってなんか和服の子が……」
「和服?え、ユーレイっちゃう感じですか⁉︎」
「妙な日本語を使うな」
「いいんです、言語は自由!テストでいい点取れればいいの、言葉は時代とともにありけりなう」
「はいはい……」

叶衣にとってここ一年の謎は、清蘭に国語のテストの点数がどうしても勝てないことである。