使わなくなった机が端の方に積み上げられた埃っぽい階段を上がり、深緑色に塗られた重い鉄の扉を開けて、屋上に入る。


よかった。

まだ飛び立ってはいない。


あたしは彼の姿を確認して、入り口ですっかり広がってしまった髪を撫でつけて、呼吸を整えてから、座っている彼の背後に近づいた。


彼はまだ、気づかない。


寝癖がついたままのチョコレート色の髪は、重力に逆らうようにぴょこんと上を向いて、ふわふわと風に揺られていた。


こんなにジメジメしてるのに、風なんてあったんだ。


そんなことを思いながら、あたしは錆びて所々ペンキの剥げかけたフェンスに足をかける。


その瞬間、フェンスがカシャン、と音を立てた。


音に気づいた彼が、こっちを振り返る。


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