ズシッと重くなった足で山南さんの部屋へと向かいます。

部屋の前まで来ると恐る恐る山南さんの名前を呼びました。

「ああ、天宮君。どうぞお入りなさい」

おや?部屋から聞こえて来た山南さんの声は明るい気がします。

怒っていないのでしょうか?

……いや、待て天宮蒼蝶。気を抜いてはいけない。よく考えるんだ。

これは山南さんの作戦かもしれない。

私を油断させておいて、部屋に入った途端仏から鬼へと変貌するかもしれないんだぞ。

策士の山南さんならあり得る話です。

「失礼します」

覚悟を決めた私は戸にそっと手を掛けゆっくりと開きました。

戸を開けば腕を怪我する前の優しい表情をした山南さんが座っていて、周りの雰囲気がやわらかい気がします。

「そこにお座りなさい」

「は、はい」

戸を閉めて山南さんと向かい合うように座りました。でも、目はどうしても山南さんの方を見ません。

「どうかしましたか?」

「いえ!何でもございませぬ!」

あっ、ヤバい!噛んだ!

「本当に大丈夫ですか?なにやら口調がおかしな事になっていますが?」

……山南さん、そこはスルーしてくださいよ。

「あ、い、いや!……今、私の中で男らしくなろう強化月間で武士らしい言葉の練習中なんですよ!ははは……」

さすがにこれは自分でも苦しい言い訳だと思いますね。