『……』

僕は構えていた刀を降ろした。

『成仏なんて出来てたらとっくの昔にやってるよ。でも、できないんだ』

坂本龍馬の横を通り、窓辺に力なく座った。

『幽霊に惚れられても迷惑だって?そんなの僕が一番よく分かってるよ。人間だったのは150年も前の話だ。でもね、蒼蝶は僕にとってすごく大切な存在なんだ。

幽霊って言っても元は人間だからね。肉体を持たず魂だけの存在が僕だ。心はあるから蒼蝶を好きになってしまった』

好きだけど、人間と幽霊は結ばれない。

僕たちが出会って10年。蒼蝶は成長できても僕はそのまま。

いつか蒼蝶の方が先に逝ってしまうのはわかっている。そうなったら僕はまた一人になって孤独の日々に戻る。

『蒼蝶は優しいからね、僕がまた一人になるまでずっと一緒にいるって言ってくれるんだ。でも、そんなの絶対にダメだ。蒼蝶の人生は蒼蝶のものだからね。僕の為に使っちゃいけない。

だから僕は蒼蝶に過去の僕の未来を変えて欲しいって頼んだんだ。過去の僕の未来を変えてくれたら、おそらく僕は成仏できる。

そうすれば蒼蝶は自分の為だけに生きられる。好きだからこそ、蒼蝶には自分の為だけに生きて幸せになって欲しいんだ』

「幸せになって欲しいなら俺の邪魔をするな」

『はははっ。いくら君と蒼蝶が両想いだったとしても、僕が蒼蝶の中にいる限り表に出てきて邪魔をするよ。好きな人が他の男とイチャつくのはイラッとするからね』

「そうかよ」