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蒼蝶の意識と無理やり入れ替わる。
そして完全に僕の意識が現れると、目の前の男の身体を突き飛ばした。そして立て掛けてあった刀を抜いて剣先をそいつに向ける。
『汚い手で僕の蒼蝶に触らないでくれるかな』
殺気を滲ませながら刀を向けられても、そいつ……、坂本龍馬は眉一つ動かさない。ジッと僕の顔を怪訝な目で見ていた。
「おまえ誰だ。蒼蝶じゃねえな」
『そうだよ。僕は』
「その腹立つ口調、組長って奴か?いや、違うな……おまえもしかして蒼蝶の剣術の師匠か?」
『なっ……』
驚きのあまり声が出ない僕に向かって坂本は笑みを深めた。
「図星か。蒼蝶から師匠は幽霊だって聞いてたし、口調が組長って奴とそっくりだからな。
まさかとは思ったけど、弟子の身体に憑りついてるなんてな」
『……ふ~ん、そっか。僕のこと聞いてたんだ。蒼蝶はずいぶん君のことを信頼しているみたいだね』
「まぁ、両想いみたいだからな」
両想いって言葉を聞いた途端、刀を握る手に力がこもった。
『蒼蝶と両想いだって?笑わせないでくれる』
「間違いないと思うけどな。俺に口付けされても、いやじゃないって言ってたから」
『っ……デタラメを言うな!』
持っていた刀で、坂本龍馬の顔に突きをくり出す。でも、そいつは隠し持っていた銃の胴体で、突きの軌道を変えた。
『蒼蝶は渡さない!絶対に!』
「幽霊が何言ってんだ。幽霊に惚れられても、迷惑なだけだってわからねえのかよ」
『それを言うなら、過去の人間に惚れられるのも迷惑だろ。蒼蝶と君は生きている時代が違うんだ』
「おまえよりはマシだ。幽霊はさっさと成仏しろ」