言葉を無くす師匠。

そんな師匠の頬に、山南さんの温かな手が添えられる。

『伊東さんが新選組に入隊してから、私の居場所は完全になくなりました。腕を負傷し、刀も振れない私はお飾りの総長。新選組にとって私は不要な存在です。

早くこの孤独から解放されたかった。でも、局注法度という鉄の掟がある限り、新選組から簡単に解放されない。

そこで私は思ったのです。その掟を利用して、お飾り総長の私でも、まだできることがあると』

『それは……?』

『最近、隊士たちの怠惰には、目に余るものがある。私は彼らの見せしめになります。私はその為に脱走をしたんです。

新選組総長を局注法度で切腹したとなれば、隊士たちも少しは目を覚ますでしょう。

私の命は新選組に捧げます。近藤さんや土方君、そして総司。試衛館時代から一緒にいる、大切な皆さんがいる新選組の為に命を捧げる。

これが私、新選組総長山南敬助の最期として一番ふさわしいと思っています』

『山南さん……』

師匠は、山南さんの手を握り絞めながら、泣き崩れました。

師匠は分かったんだ。

山南さんの意思は石のように固く、何を言っても考えは変わらないって。

大切な人の死を避けることができない。そう感じて師匠は涙を流しているんだ。

すると、山南さんは泣き崩れる師匠の肩に、手を置きました。

『お願いがあるんです。私の介錯は、総司にしてもらいたい』

『いっ、いやです!山南さんは僕にとって、近藤さんと同じぐらい大切な、兄のような人なんです!だから……』

『総司』

拒む師匠を、山南さんは静かな声で遮った。

山南さんはの顔は微笑んだままでした。それはまるで、我が子を慈しむようなやらかい笑み。