「よりによって坂本龍馬か……」

土方さんが低い声で額に手を当てた。

坂本龍馬の存在は新選組に知らされていた。

奴はまだ特に目立った動きはしていないけど、幕府が危険視している人物の一人だ。

高杉晋作とも繋がりのある男と天宮さんが関係を持っていたなんて、信じられなかった。

だってこれじゃ、まるで……。

「天宮は間者だったってことか?」

左之さんの言葉に全員が口を閉ざした。

確かに左之さんの言う通り間者みたいだ。

でも、僕は

「天宮さんは間者ではありません」

無意識に出た言葉に全員の視線が僕に集まるのを感じた。

「その根拠はなんだ」

土方さんの射抜くような鋭い視線が僕に向けられる。

あまりの鋭さに僕は袴をギュッと握りしめた。

「天宮さんは前、新選組の情報を守ってくれたことがあります。

もし間者だったとしたら、僕たちの情報を守ったりするでしょうか」

「ただ単純に、そいつらに情報を渡したくなかっただけかも知れねえ。

倒幕派の組織は高杉や坂本だけじゃねえんだ。そいつらと対立の関係なら、敵に有力な情報は渡したくねえだろ」

「でも、天宮さんは情報が書かれている紙をくれました。普通ならその紙を自分の物にしますよね」