「それで、今日で最後ですから、これをお返しします。今までありがとうございました」
懐から懐中時計を取り出し、龍馬さんに差し出す。
けれど、龍馬さんは懐中時計に手を伸ばそうとせず、それを眺めるだけでした。
「どうしたんですか?」
「……いらね」
「え?」
なぜ、龍馬さんは懐中時計をいらないと言うのだろう。
「大切な物だと言ってたじゃないですか」
「それを返してもらったら、蒼蝶との繋がりがなくなる気がする。俺は、まだおまえとここで他愛のない話をしたい」
龍馬さんは懐中時計に向けていた視線を私へと向ける。
「今日が最後だなんて言わないでくれ」
肩を掴まれ、龍馬さんの額が私の肩に乗せられた。
距離がグッと近くなったことで、龍馬さんの匂いが強くなる。
龍馬さんと過ごした時間は短いけど、私の身体はすでに彼の匂いを覚えていた。
屯所にいる時も隣に龍馬さんがいる筈がないのに、一瞬だけ龍馬さんの香りがすることもあった。
「蒼蝶、頼む……」
掠れた声に甘えるような仕草。
私は思わず、龍馬さんの広い背中に腕を回そうとした。
けど、その瞬間、越えてはならない一線のようなものが目の前に現れた。
この腕を回したら、私はこの一線を越えてしまう。
越えてしまったら、おそらく引き返すことはできない。
懐から懐中時計を取り出し、龍馬さんに差し出す。
けれど、龍馬さんは懐中時計に手を伸ばそうとせず、それを眺めるだけでした。
「どうしたんですか?」
「……いらね」
「え?」
なぜ、龍馬さんは懐中時計をいらないと言うのだろう。
「大切な物だと言ってたじゃないですか」
「それを返してもらったら、蒼蝶との繋がりがなくなる気がする。俺は、まだおまえとここで他愛のない話をしたい」
龍馬さんは懐中時計に向けていた視線を私へと向ける。
「今日が最後だなんて言わないでくれ」
肩を掴まれ、龍馬さんの額が私の肩に乗せられた。
距離がグッと近くなったことで、龍馬さんの匂いが強くなる。
龍馬さんと過ごした時間は短いけど、私の身体はすでに彼の匂いを覚えていた。
屯所にいる時も隣に龍馬さんがいる筈がないのに、一瞬だけ龍馬さんの香りがすることもあった。
「蒼蝶、頼む……」
掠れた声に甘えるような仕草。
私は思わず、龍馬さんの広い背中に腕を回そうとした。
けど、その瞬間、越えてはならない一線のようなものが目の前に現れた。
この腕を回したら、私はこの一線を越えてしまう。
越えてしまったら、おそらく引き返すことはできない。


