私の師匠は沖田総司です【上】

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私は組長が部屋に戻った後も一人縁側で、隊服を縫っていました。

月の光で外が明るいから、手元がよく見える。

行灯だけの薄暗い部屋よりも、外の方が明るいから繕い物が捗(ハカド)ると思っていたけど、ついつい手をとめてしまう。

理由は分かってる。

龍馬さんのことで頭が一杯なんだ。

明後日から川原で龍馬さんに会えなくなる。そのことを彼に伝えなければならない。

「これも返さないと……」

懐から綺麗な白い布に包まれた懐中時計を取り出す。

パチンと音を立てて蓋を開ける。

そしてそれを耳に当てると、小さな秒針の音が鮮明に聞こえました。

耳から外し、懐中時計を撫でる。

「君ともお別れだね。今までありがとう」

この懐中時計には沢山助けて貰った。

眠れない時や不安な時、この音に助けてもらった。

でも、それはもう明日で終わる。

龍馬さんとも会うこともなくなる……。

そう思ったら胸が切なくなって、目頭が熱くなった。

視界が滲み、涙が数滴、懐中時計の上に落ちた。

「やだっ……、どうして涙が……?」

袖で涙を拭うけど涙はとまってくれない。

きっと今日色々あったから疲れてるんだ。

それで涙もろくなってるだけ。

今日はもう、早く寝よう。

私は裁縫道具を仕舞うと部屋に戻って布団の中に入った。

いつもなら懐中時計の音を聞けばすぐに深い眠りにつけるのに、今夜は中々眠りにつけなかった。