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「一君」

「何だ」

3番隊との巡察の帰り。僕は隣を歩く一君に話し掛けた。

「巡察が終わったらさ、僕と稽古をしようよ」

「この後は夕餉だ」

「だったら夕餉の後」

「断る」

「どうせ夜は暇でしょ?」

僕はそっけない反応をする一君向かって、ムッと頬を膨らませた。

一君は僕を一目見るとすぐに目線を逸らした。

「食事の後の激しい運動は体に悪い。夜ぐらい体を休めろ」

「え~、いいじゃん。一君以外に、僕の相手にふさわしい人は居ないんだよ。僕はもっと強くなりたいんだ。だからお願い」

「アンタがどう言おうが、返事は変わらない。休むことも強くなる秘訣だ」

チェッ、一君のケチ!僕はツンと顔を一君とは逆の方向に向けた。

我なりに子供っぽい怒り方だと思うけど、これ以外の怒り方が分からなかった。

すると一君が呆れたような溜息を吐いた。

「焦っているのは天宮のせいか?」

「別に焦ってなんかいないよ」

「嘘をつくな。最近アンタは、ずっとサボっていた朝稽古に行くようになっている。

それに、夜は隠れて稽古をしているだろ」

何で一君がそんなことを知ってるのさ。

もしかして、見られてたの?

うわ、何だか恥ずかしいんだけど。