「奈緒、待って!」
俺が掴んだ腕は細く、力を入れると折れてしまいそうだ。
奈緒は俺の腕を振りほどこうとし、
「もういいやん。いまさら何?」
と涙目で訴えた。
「いいことあるか!ちゃんと話を聞け!」
俺は奈緒の肩を掴み、声を荒立てて言った。
俺の表情に奈緒は驚いていた。
「ちゃんと最後まで話を聞いてくよ・・・」
そう言って奈緒を見ると、奈緒は静かに頷いた。
「俺さ、言葉足らずやから・・・重要なことをいつも言えなくて・・・」
俺は公園のベンチに座り、誤解を解こうとした。
あの時は寒くて凍りそうだったこの公園の空気も1ヶ月経つと暖かくなっている。
「・・・・・・」
あー黙ってたらあかん!
「奈緒、俺の話聞いてくれるか?」
隣にいる奈緒は静かに頷いた。
俺は、中学の時の苦い思い出を話した。
「だから・・・自信がなかったんや。
でも、奈緒はその子たちとは違う・・・俺の違う面を見ても嫌な顔をしなかった・・・それがわかってたのに・・・俺が意気地無しだから・・・」
奈緒の顔を見ると、俺の方を向いて、優しい顔をしてくれていた。
「ありがとう。話してくれて・・・私もね、圭と話をしたかったの。あの時何も聞かずに別れたから・・・」
俺は俯き恥ずかしそうに話す君の横顔に見とれていた。
彼女を1ヶ月もの間、悲しませていたなんて、自分の行動が悔やまれてならない。
「奈緒・・・ごめん」
「また謝ってる・・・謝る前に話してよ・・・」
「あっ、ごめん・・・ってまた謝ってるし」
俺たちは久しぶりに笑いあった。
その笑い声が春の空に消えた時、俺は覚悟をした。

