「・・・というわけです」


私は涙を堪えて全てを話した。私が話をしている間、先生は何も言わず、じっと聞いてくれていた。


「彼が断った理由は?」


「えっ?」


「聞いてないの?」


「そんなこと聞く余裕なかったし」


「ふぅん」


そう言って、先生は席を立った。私は先生の背中を見つめる。


「橋本さん、練習するで」


振り返って言う先生の表情は、私の考えなんてお見通しといった感じだった。


「先生、私断るって言ったじゃないですか」


「ハイハイ、ごちゃごちゃ言ってないで弾いてみて」


私は、楽譜を渡された。


そして私は言われるがままに音楽室移動し、ピアノの前に座った。


私は深呼吸をして鍵盤に手を触れた。


『仰げば尊し』が音楽室に響く。


なんでやろう・・・・なんだか気持ちが軽くなるみたい。


一曲弾き終わり、私は天井を見上げ、目を閉じた。


私の心が少し癒された気がした。


「これでも断る?」



先生は微笑みながら言った。


「・・・・・・」


「しばらく、ピアノを弾いて冷静になったらどう?いい答えが出るんじゃないかな?」


「はい」


先生が言う意味がよく理解できなかったが、ピアノを弾こうと思った。


私はその日から、毎日ピアノの練習をした。


卒業式の曲だけではなくて、好きな曲も弾いたりした。その度に、心が癒されて気持ちが軽くなるように思えた。