私は圭にフラれてから、圭とは連絡をとらなかったし、向こうからも連絡がなかった。
目の前が真っ黒になって、何にもやる気が出なかった。
こんなことになるなら告白なんかしない方がよかった・・・・・・。
「橋本さん」
私が廊下をトボトボと歩いていると、橘先生に声を掛けられた。
「はい」
あ・・・卒業式の話、忘れてた。
「橋本さん、音楽準備室来てくれる?
「・・・」
先生、今は無理です。
私は先生に言って、断ろうと思っていた。
「どうぞ」
橘先生に招き入れられた音楽準備室は、綺麗に整頓されていて、窓から入る日差しが柔らかく感じた。
「橋本さん、紅茶でいい?」
「はい。でも、私いいですよ。先生、腕が・・・」
「じゃあ、橋本さん入れてくれる?」
そう言う橘先生は、柔らかい笑顔をしていた。
大人の女性・・・先生を見ているとそう思う。
「橋本さん、練習してる?」
先生は私の顔を覗き込むようにして聞いてくれた。先生の瞳を見ていると吸い込まれそうになる。
それくらいきれい。
「いえ・・・私、このお話断ろうと思て・・・」
「なんで?・・・ってなんとなく理由はわかるけど」
わかる?
「・・・・・・」
「失恋かな?」
先生は首を傾げて、私の顔を覗き込むように聞いて来た。先生には隠しても無駄だと感じた。
「せんせ〜。聞いてくれますか?」
私は泣きそうな顔をしていたにしがいない。
先生は形のいい眉を下げて、小さく頷いてくれた。