帰る用意をしていたら、担任の北島先生から呼び出された。


「えーっ!先生、今日じゃないと駄目ですか?」


「すぐに終わるから、職員室に来てくれよ」


「はぁい」


なんで今日に限って・・・。


ついてないし。


私は急いで職員室へ向かった。


「失礼します!」


「橋本、こっちだ」


北島先生は右手をあげて私を呼んだ。


「先生、早くしてくださいね」


先生の机の上は物が溢れていて、一つを動かすと、崩れてしまいそうだ。


「あぁ、ちょっと待っててくれ」


はぁ?


早くしてよ! 


数分待っていると、職員室に音楽の先生が入ってきた。


先生は28歳で、最近婚約したばかり。


それを悔しがる男子生徒がいるくらい、人気がある。


ピアノがとても上手で、いろんな賞をもらえるくらい、実力もある。


でも、いつもはピアノを奏でる左腕には、ギブス・・・・。


「橘先生、どうしたんですか?」


「ちょっと、怪我しちゃってね」


ちょっとって・・・・。


その時、北島先生が戻って来た。


「なぁ橋本、橘先生の代わりに卒業式にピアノを弾いてくれないか?」


「えぇぇぇーっ!」


「私からもお願い」


「む、無理ですよ!!」


私は必死に首を横に振った。


「橋本さんがいろんなコンクールで賞をとってたの、知ってるわよ」


「えっ?」


「有名だったからね」


確かに私は3歳からピアノを習っていて、いろんなコンクールで優勝もしたこともある。


でも、高校に入ってからは、ほとんど弾いてないし。


しかも、いきなり大勢の前でなんて・・・・無理!!


それでも先生たちは私に頼んでくる。


「お願い!あなたくらいにしか頼めないんよ」


「なぁ、橋本・・・やってくれないか?」


橘先生も北島先生もなんでそんな声で言うんよ・・・・断れないやん。


「わかりました」


私は先生たちに負けた。


「橋本さん、ありがとう!今度、何かおごるから!」


「絶対ですよ?」


はぁ・・・・えらいことになったなぁ。


卒業式まであんまり時間ないし・・・・。


時間がない・・・・・。


あぁぁぁぁ!! 


忘れてた!


私は急いで学校を出た。


時計を見ると、5時になろうとしていた。


何がすぐに終わるんよ!


30分も時間とられたし!!


私が息を切らして公園へ向かうと、そこには制服姿の圭がいた。


よかった!


「遅くなって、ごめんね」


「いいよ」


いつものような控え目な笑顔で迎えてくれた。