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「はじめまして。橋本 奈緒です」


笑顔で橋本さんが俺の前に座った。


「梶原くん、ハンバーグを頼んだんやぁ。じゃあ、私は・・・明太子スパゲティーにしよっ」


嬉しそうにメニューを眺めている。


橋本さんが俺の前に座って、10分。


何も話していない。


絶対につまらないって思っているやろうなぁ。


俺だって、話をしたいんやで。


目の前の女の子は、かわいいし、こんな子が彼女になってくれたら・・・・とも思った。


でも、何て話し掛けたらいいものか・・・・。


俺がそんなことを考えながら飯を食っていたら、

「橋本さん、ごめんね。こいつ、かなりの人見知りやねん」

木下がやって来た。


「おいっ、余計な事言うなよ・・・」


「ホンマのことやん!」


確かに、否定はできない。


「でも橋本さん、こいつめっちゃいい奴やから、長い目で見てやってよ」


「う、うん」


橋本さんは困った様子だったが、嫌とは言わなかった。


それだけが救いだった。


『長い目で見てやってよ。』って・・・・俺に付き合ってくれる程、気の長い奴なんてお前らくらいやぞ?


「梶原くんは、何か部活入ってるの?」


何も話さない俺に、痺れを切らした橋本さんが突然聞いて来た。


えっ?


いきなり何?


突然の質問に答えようと、俺は口の中のハンバーグを飲み込もうと必死になった。


「プッ」


目の前の橋本さんが、なぜか吹き出して、笑顔になっている。


「・・・よかった。笑ってくれた」


心の中で言ったつもりが、口に出していた。


俺の言葉に彼女は、恥ずかしそうに俯いた。


その仕草が、また可愛らしかった。


「俺、話すのあまり得意じゃないから・・・楽しくないよね」


「えっ・・・そんなことないよ」


「橋本さんは優しいんやね」


俺がかわいそうやと思ってくれたんだろうな。


この沈黙さえも苦に思っていないものも俺だけなんやろうなぁ。


「そんな・・・梶原くんこそ楽しくないでしょ?」


俺、そんなにつまらなそうにしてる?



「いや。橋本さんがおいしそうに食べる姿を見てるの楽しかったよ」


俺、何言ってるんやろう。


でも本当のこと。


彼女は顔に似合わず、豪快に食べる・・・・・そう言うと聞こえが悪いが、少しずつ口に入れて上品ぶって食べるより、よっぽっどいい。


それに、食べた後の幸せそうな顔を見たら、こっちまで幸せになるような錯覚に陥る。


「えっ??」


まただ。真っ赤になって俯く姿がかわいい。


俺、この子ともう少し話したいかも・・・・・。


その日は帰りに、携帯番号とアドレスを交換して、別れた。


彼女と別れてからも彼女の笑顔が頭から離れなかった。