窓からは、この辺りでは一番高いビルが嫌でも目に入る。


俺の父親の会社だ。


父は、日本でも5本の指に入るイチノセホールディングスの3代目社長。


そして俺は、市之瀬家の長男の市之瀬翔吾(イチノセ ショウゴ)。



つまり、跡取り息子というわけだ。


跡取り息子と言えば、大切に育てられてそうだが、俺は割と自由に育てられた。


自由と言っても、何十万と小遣いを貰って、好きなだけ好きなものを手に入れるようなお金の自由ではなない。



ちなみに、俺は世間並みの小遣いしか貰っていなかった。


それが、両親の方針。


たまに、周りの奴らのことが羨ましいとも思ったりもしたが、今となっては、こっちの方が良い。


高校は、少し離れた国立大学の附属高校へ行った。


まぁ、そのまま大学まで行ってもよかったのだが、金で何でも解決できると思ってる奴らの中で過ごすのが嫌になったので、外部の高校に進学した。


5歳上の姉さんは、「あんな狭い世界でいたってしかたない。所詮、井の中の蛙よ」と事あるたびに言っていた。


そんな姉さんは、高校までは内部進学したが、突然アメリカの大学に行くと言い出し、本当に行ってしまった。


そして1年前、大学で出会ったフランス人と結婚した。


弟の俺からしてもぶっ飛んだ姉である。


姉さんが、アメリカの大学に行きたいといった時も両親は一切反対しなかった。


父は「いいぞ行ってこい」、母は、「あら、楽しそうね」とあっさり言ったことに、当時中学生だった俺は驚いた。


姉さんがいたから、俺はあの世界を抜け出そうと思えたのだろう。


だから、今でも姉さんには感謝しているし、俺らが自由にすることを許してくれる両親にも感謝している。



そして、大学もこの辺りでは1番の難関校である京府大学に合格した。