「はぁ、はぁ…。」

頑張って走った甲斐あって、どうにか番組が終わる前にテレビ局にたどり着いた。

「あと二分か…。」

今のうちに呼吸を整えておかないと。ペットボトルのお茶を飲む。

「…あ、出てきた…。」

入口を見張っていると、田松さんが出てきた。これから取材にでも行くのだろうか、周りには誰もいなかった。

「あの、すみません。」

もう一度誰も見ていないのを確認すると、田松さんに声をかける。

「はい?」
「あの…ちょっとお伺いしたいことがあるんですけど…。」

一瞬、田松さんと目があった。すると田松さんはすぐにケータイを取り出し、何かをやり始めた。

「やっぱり…。」
「えっ?」
「あなた…恋人屋の新海紗姫さんですよね?」
「何でご存じなんですか…?」
「そりゃ知ってますよ。僕はジャーナリストですよ? あの事件のことを調べていないわけがないじゃないですか。」
「あっ…。」

傷がえぐられたように感じた。この人も、私を追いかけていた人の一人なのか…。

「あの時は、本当に申し訳ありませんでした。ジャーナリストだというのに、てっきり周りの情報に流されてしまって…。」
「…。」

うつむいたまま、黙っている私。

「なので、罪滅ぼしをさせていただけませんか?」
「え…?」
「恋人屋を、救わせて下さい。僕が、客としてお金をお支払いします。」