「もしもし…。」

ケータイをうまく持てないまま、私はお義父さんに電話をかけていた。

「どうしたの、紗姫ちゃん?」
「帰ってこないんですっ…。」
「菜月が?」
「はい…。」
「そうか…。」

お義父さんは「参ったな」と呟き、ため息をついた。実の父親でもため息が出るほどの緊急事態なのか。そう思うと、いてもたってもいられなくなった。

「あの…。」
「ん?」
「今からお邪魔してもいいですか…?」

仕事があればそっちに専念すればよかったのだが、あいにく今日は休みとなってしまっている。こんな状況で、家になんていられない。

「いいよ。」

たった三音。でもその三音が、この時の私をどれほど救ってくれただろう。

「お邪魔します…。」

久しぶりに訪れる菜月くんの実家は、私の家から車で一時間ほどの所にある。高級住宅街、というわけではないがそこそこいい感じの立地で、駅からも近い。そんな住宅街の一角にある、緑色の屋根が目印の家にお義父さんとお義母さんが住んでいる。

「あら、紗姫ちゃん。いらっしゃ~い。」
「すみません、突然…。」
「いいのいいの。さ、入って。」

私を歓迎してくれたこの女性は、菜月くんのお母さんの新海洋子(シンカイ・ヨウコ)さん。菜月くんと結婚する時に新海家を訪れた際、私を見るなり即座にオッケーしたという気前のよさの持ち主だ。