「菜月を、言い負かしてやるんだ。」
「えっ…?」
「菜月は昔から、謝ってもなかなか許さないってことがあるんだよ。頑固なのかな?」
「そうなんですか…。」
「でも、そういうところがまた菜月の強みだったりもするんだ。自分の信念をなかなか曲げないし、曲げられないからね。だから、菜月の方から謝ってもらう。これでどう?」
「…うまくいくんですか?」
「親っていうものは、息子のことを一番よく知ってるからね。」

私は家に帰り、菜月くんを待った。テレビを見て、金魚鉢の中を眺め、ひたすら時を過ごした。

だけど…菜月くんは、帰ってこなかった。寝ずに待ったのだが、菜月くんのただいまはなかった。

「嘘…。」

終わった。終わってしまった。

私は、菜月くんに捨てられてしまったのか…? 誰のものとも分からぬせせら笑いが鼓膜に貼りつく。

「嫌…。」

私の思いとは反比例に、どんどん大音量になって行く。

「嫌ぁぁぁっ!」

私は部屋の中で、近所迷惑になりそうなほど叫び声を上げた。私が恐れていた最悪の事態だった。

菜月くんとは、菜月くんとだけは、離れたくなかった。だから、この結果は悲痛すぎた。神様も悪ふざけをするものなんだ、と、この時初めて気がついた。本当は、お母さんが死んだ時に気づいていてもよかったのに。