「はぁ…。」

会社を出てから十分後。気分は落ち込んだものへと変わっていたが、不思議と足の進み具合は変わっていなかった。

誰かに、今の私を分かってもらいたい。菜月くんじゃない、誰かに。

「『え~、では続いてのニュースです…。』
『マジ腹減った~…。』
『はい、藤原です…あ、その節はどうも…。』」

普段は耳を通り抜ける街の雑音が、今日はいやに耳に入ってくる。歩きながら友達と話す人、独り言を言っている人、電話をかける人…。

「…。」

電話、か。

スマホに登録されている電話帳を、片っ端から見てみる。相談できそうな人が見つかれば、電話をかける。

「もしもし?」
「紗姫じゃん。突然どしたの?」
「…ちょっと菜月くんとケンカしちゃって…。相談に乗ってくれない?」
「う~ん…ちょっと厳しいかな~。今仕事中だし。」
「そっか…。ゴメンね、忙しい時に。」
「いや、全然。こっちこそ、相談乗ってあげられなくてゴメンね。」

こんな感じで断られていく。

「次は…。」

次の番号を見た時、私の指が止まった。

「…ここは飛ばそう…。」

スルーしようとしたが、もう一人の私が待ったをかけた。

「…。」

私は震える指先で、菜月くんの実家に向けて通話ボタンを押した…。