それでも…。

やっぱり、涙は出てくるものだ。

ドアを開け、仕村が部屋の外へと出て、そしてドアが閉まる。たった数秒で収まるはずのこの動作が、今日は何故か永遠にも等しく、あるいはそれ以上に長いものに思えた。

「…。」

声も出さずに、私は床に涙を垂らした。

「何だよ、泣いてるのか?」
「だって…仕村は恩人なんだよ?」
「それが?」
「こんなに突然さよならなんて…寂しすぎるよ…。」

すると菜月くんは、意外な一言を放った。

「それでよかったと思うけどな、俺は。」
「えっ…?」
「引き延ばしたら、より別れが辛くなると思うから。…ほら、テレビでバンジージャンプやってたりするだろ? あれと同じ。跳びたくないって思って一回躊躇したら、もう何時間も跳べない。だけど思い切って跳んじゃった方が、恐怖感って残らないらしいからな。紗姫も、早く跳んだから寂しさって残らないと思うけど?」
「それがダメなの…。」
「ん…?」
「消したくないの!」

思っていたよりも大きな声が出てしまった。

「そうやって記憶から消えていくのが嫌なの! 今まで会った人もそう! 忘れたくないの! 皆大切な人だから! だからそんなこと言わないでよ!」
「わ、悪い…。」
「もういい!」

私は今度こそ数秒でドアを開け、部屋の外へ出て、ドアを閉めた。こんな気持ちになったのは初めてだった。

カツカツと音を立て、廊下を速足で歩く。カバンは持ったままだった。