「紗姫様。」
「何?」
「とりあえず、ここから逃げた方がよろしいかと。車を用意しておりますので、それで逃げましょう。」
「車?」
「はい。」

仕村に手を引かれ、私は黒いセダンの前まで連れてこられた。

「どうぞ、紗姫様。」

ドアが自動で開く。外見もさることながら、内部にもかなりの高級感が漂う車だった。

「どこに行くの?」
「ひとまず、用意しておいた隠れ家へとご案内いたします。その後のことは、またそちらで決めましょう。」

私が乗ると、有無を言わさず車は走り出した。騙されて…ないよね。私は自分に、何度も言い聞かせた。

「こちらでございます。」

そうして着いたのは…。

「ここ…?」

これぞ豪邸、という感じの、それはそれは大きな邸宅だった。

「どうぞ。」

細い路地を抜けてきたので、きっとそれ以外にここに来る道はないのだろう。

「そう言われても…。」

遠慮してしまうというか、敷居が高いというか…。

「…ま、いっか。」

何もしないよりはマシだ。私は、豪邸へと足を踏み入れた。