「…え?」

予想通りのキョトンとした顔。

「マ、マジ…?」
「うん。たまたま分かっただけだから、まだ産まれてくるまでだいぶかかるみたいなんだけどね…。」
「…よっしゃぁ!」
「え?」
「いや、俺、嬉しくてさ。その…父親になれるっていう、その…。」
「私も。…なってみたかったから、母親に。」

時計を見る。もうそろそろ帰る時間だ。

「…じゃあ、帰ろう、菜月くん。」
「おう。」

帰りの電車にて。

「座れば?」
「いいって。菜月くんこそ、疲れてるでしょ?」
「ま、どっちにしろ次で降りるけどな。」

規則正しく揺れながら、電車は夜の街を駆け抜けて行く。

「紗姫。」
「ん?」
「やっぱ…俺、立っとくわ。何か…違和感あるから。」
「そう?」

菜月くんが席を立つ。私達は二人、同じように揺られている。

いつもと同じようで、少し違う今日という日。

私は浮かんでは消えて行く色んな思いを、頭の中にぼんやりと流していった。

ふわふわと浮いているような感じだった。現実として、実感できていないのだろうか。