「恋人師の仕事をそんな風に考えるなんて…私には全く分かりません!」
「ふっ…君も愚かだな、私に盾を突くなんて。」

カチャリ、という音が銃から聞こえた。

「私達と恋愛体験がしたいって来て下さった、お客様という依頼人の依頼を精いっぱい全うできるように努める…それが恋人師の仕事なんじゃないですか!? 恋人師は、お客様全員の恋人…そうじゃないんですか!?」
「私はそのようなつもりで作ってなどいないが?」
「そうだとしても、正当に結婚詐欺をする場ではないです! そんなの仕事とは呼べませんし、そもそも正当ですらありません! 私以外の人だって、皆そうです! そんなつもりで、ここに入ったんじゃありませんから!」
「黙れ!」

銃を構えた右腕が、激しく震える。

「私が恋人屋を作ったのだ! 私が王様だ! 創造神だ! あの時何故、あっさり逮捕されたのか教えてやろうか? お? 芝居だ! あそこで私が消えたように見せかけることで、お前達は諦める、そう思っていたのだ! ところが何だ? お前はまた私のことを調べ始めた! 愚かにも再び、自ら心の傷をえぐりに来た! まさかお前に、それほどの度胸があるとは思ってもみなかったからな…お前も同じだ、新海菜月!」

腕をロープで胴体にくくりつけられた菜月くんに、銃口が向く。

「元々お前がいなければ、紗姫は私の前にひれ伏していた! …そうだ、お前が! お前こそが! お前こそが真の反逆者だ!」

菜月くんの目は、ただ一点を睨んでいた。

「何だ、その目は? 反逆者呼ばわりされるのが不服か? いいだろう…ならばその耳を、いや、五感すべてを遮ってやろう!」
「やめて!」

菜月くんの命は、何としても守らなければ。

「撃つなら私を撃ってよ! 復讐心を持ったのは私でしょ!? だったら私を撃って! 菜月くんは関係ないから、私を撃って!」