顔も知らない貴方へ



私は少し早口で言うと、
ぺこりとお辞儀をした。


すると、目の前の男の人は
グイッと顔を近づけ、
私の顔を覗きこんだ。


綺麗な顔が突然目の前に迫り、
私は思わず顔が赤くなり、
心臓もドキドキと激しくなり出した。


しかし、そんなことは気にせず
目の前の人は思い出したのか、
あぁ!と言いながは、手を叩く。


「あの時の娘さん!
お母さんに怪我がなくて
よかったですね!」


そう言って優しく笑う
その笑顔に一瞬思わず見惚れてしまう。


「あのー?」


心配そうに声を掛けられ
慌てて我に戻ると、
病院に来る途中に林檎を買ったのを
思い出した。


「あの!これお礼といってはなんなんですが、林檎さっき買ったんです。
よかったらどうぞ!」


私は袋から一つ取り出すと、
その人に手渡した。