顔も知らない貴方へ



「なーんか、今の人かっこよかったね」

由良がニヤニヤしながら言ってくる。

黒髪に長身で、
優しく綺麗な顔立ち。


私はなんとなくあの人が
気になって、
その後ろ姿が見えなくなるまで、
視線がそらせなかった。




そのあと、私達はお母さんの病室に
戻り、先程のいきさつを聞いていた。


「梓から二人でお見舞い来てくれる
って聞いたから、プリンでも買ってこようかなとも思って売店に行ってたの。
その帰りに、転びそうになっちゃって。
そしたら後ろにいたあの人が、
支えて助けてくれたってわけ。
にしても、あの子かっこよかったなー」


「ねー!しかも優しそうだし!」

「梓ー、お母さん息子になるのは
ああいう人がいいな。
きっと2人と同い年くらいだよね?」

さっきの男の人の話で盛り上がる
2人の会話は聞き流しながらも、
あの人の後ろ姿が、
脳裏から離れない。


こんなこと、あまり無いのにな....


それから面会時間ギリギリまで
お喋りをした後、
その日は家に帰った。