犯人は田中殺人事件【短編】

思考停止に陥り何も出来ない皆を尻目に私はツカツカと死体へ歩み寄り手首をとる。脈はない。胸を見つつ口の前に手をかざす。呼吸もしていない。

「やはり亡くなられているようです」

「……!!」

私の断言に誰かが声にならない驚きのうめきのようなものをもらした。

そしてなぜか私と1ヶ谷氏以外の全員が一斉に田中氏を見て、目を逸らさないまま後ずさり、田中氏からジリジリと距離を取り始めた。

どうしたのだろう?ひょっとしたら田中氏は死体を見た驚きのあまり、オシッコかウンコを漏らしてしまい臭いのかも知れない。私は何も感じないが。

おっと、そんな事より今この場で最も冷静な者の義務としてアレを宣言せねばなるまい。

「皆さん聞いて下さい。皆さんはクローズドサークルという言葉を知っていますか?推理小説でよくあるシチュエーションで雪で閉ざされた山小屋や絶海の孤島など人が出入り出来ない状況を指します。そう、まさに現在の我々の状態がそうです」

今度は生きている人全員が私を見る。私は言葉を続けた。

「つまり……この中に犯人がいます!」

ラウンジが水を打ったような沈黙に包まれた。

しかし皆の表情がビミョーなのはなぜだろう?